女心を解す男。

おもしろかったので記述する。
ひと月半ほど前に、友達に電話をした。
 
私「元気?」
 
男「うん。お前は?」
 
私「・・・・・・・どうしてそんなこと聞くの?いつも聞かないじゃない」
 
男「別に理由はないけど」
 
男はとぼけたけれど、私に何かあったということを最初の言葉で察知していたから聞き返したのである。実は、私は最初から泣いていた。
 
私「今日はホントに○○ちゃんの声が聞きたくて電話したの」
いつも声が聞きたかったと言うが、いつもは「ウソ」である。
 
男「うん」
 
「しょうがないから、今日は黙って話を聞いてやるよ」と男はすぐに続けて言った。今回の私の電話の目的を察したらしい。
 
私は泣きながら説明した。感情を吐き出した。男は黙って聞いていた。黙って聞くことが私の心を1番落ち着けることを彼は知っているからそうしたのである。多くの女はそうであるということも知っているのだ。
 
男「よし、わかった!俺が全部受け止めるから。お前の全部を受け止めるから。だから、安心しなさい」
 
この男らしい返し方である。女心を十分解した上で、この言葉を選んだようだ。この男の言葉が真実ではなく、そんなことが不可能だということを私は分かっていたけれども、この男が、この言葉を選んで私を癒そうとしているということをも、私は十分わかっていた。
 
私「ありがとう!○○ちゃん大好き!」(言っておくが、恋愛関係でも何でもない)
 
だから、私は喜びを溢れさせたのである。彼を男として好きなわけではなかったが、これが私の素直な気持ちであった。また、彼もこの「好き」に男女間の意味がないことを十分わかっているから、私も素直に言葉にできたのである。
 
私「さすが女心が分かるのね」
 
男「はは。女を口説く常套文句じゃないか」
 
つまり、口説きテクニックを、私を癒やすために使ったのだ。私たちは、もちろん、それを分かった上でこのような会話を続けている。「本当の意味で私の問題を解決できることはできない」男はそんなことは分かっていながら、今の私に必要な言葉を与えているのである。
 
私「だよね♪ でも、私はそれくらいじゃ落ちないよ♪」
 
恩恵を受けている立場のくせに、いちいち余計なことを言っちゃうのが私なのである。男は、私が落ちないことも分かっていながら、こ優しさからそう言ったのである。憎まれ口を叩くような男であるが、本当はとっても優しい。それで、自分が知っている口説きテクニックを使って私を癒やしたのである。私がそんなテクニックでは落ちないことなど、彼が1番よく分かっているし、そもそもそんなことは最初から期待していない。
 
ただ、普通は、ここにつけこんで一気にベッドまで持っていくものである。あるいは、自分の本気で好きな女をものにするために、この手段を使う人もいる。そして、こういう言葉に女性はコロッと言っちゃう(らしい)のである。
 
 
この文章は、ひと月半前に書いたのだけれど、この会話はとてもおもしろいなぁと思う。いろいろな要素を含んでいるからだ。この男が心理をよく理解していることがすごくよく分かるし、男がその心理を使って私を癒そうとしていることを、私は見抜きながらあまえているのである。
 
そもそも、この男は「元気?」などと私に聞いたことはほんの数回しかない。今回は、私の電話のひと声で「これは異常事態だな」と感じとったから言っているのである。「全部受け止める」なんて言葉も本気で言っているわけではないし、こんなことを言われたこともない。そんなことが不可能であることを、彼は十分分かっているのである。
 
この会話から読み取れることは、この二人は恋人同士ではないけれども、ある程度親密ではあるということだ。