あの人を笑わせたくて…。

壁からヒョコッと顔だけ覗かせて、笑顔で私は語りかけた。
 
「ああ、はい」
と、その人は言い、やっぱり笑わない。
 
今日もダメだったか・・・。と私は思った。だいたい、笑顔で話しかければ、相手がつられて笑うのに、この人は絶対に笑わない。
笑わない人を見ると、なんとか笑顔にしたいという欲望がふつふつと湧いてくる。
 
笑わないのにはいくつかの理由があるように思う。もともと笑う習慣がない、自分の感情を隠すため、怒っている、相手のことがキライ、それか、照れている場合である。
 
この人との付き合いは短いので推測の域を出ないが、もともと笑う習慣がないか、照れ屋さんなのだろうかと思う。もしかしたら、私のことがキライだったりして(笑)でも、さり気なく「ちぃちゃん」と呼ぶので、大キライというわけではないと思う(たぶん)。
 
もうちょっと慣れていたり、話しやすい雰囲気であれば、あらゆる言葉や態度を駆使して笑わせることも可能であるけれども、この人は顔の見えないときには笑ったような声をするのにもかかわらず、目が合っているときには笑わないような気がする。冗談も、ボソリと言う。
 
なんだか、この方が私のツボである。好きとかそういう色気のある話ではなく、もの静かだけれども、個性がとっても出ており、ときに話すとボソリと名言を言うのである。時おり話される言葉から、この方が物事を前向きに捉えることが窺える。他者を成長させてくれるようなことを言ってくれるのだ。
 
この人は、ほとんど話さないけれども、表面に現れる言葉以上に多くのことを外の世界から受けとり、感じとって、そして思考を巡らせているということが、言葉の端々から見えてくる。寡黙な人なので、さり気ない心配りをしてくれる人である。
 
お酒を飲めばよく話すというので、その姿を見てみたいような気がする。