美女と野獣のベルを擬似体験した件。
美女と野獣のベルを擬似体験した件。
でも、物語には、前置きというのがある。一見つまらなそうな前置きがあるからこそ、最高のシーンが映える。
さて、一般庶民のベルのように、私も一般庶民のごとくマクドナルドの宅配を注文した。二度も宅配が遅れたことから “on time(時間通り)” でお願いします。というメッセージ付きで宅配をお願いした。
それでも二時間待ちのようである。私はゴロゴロとして待っていた。そして、途中で携帯電話を無音にしていたことに気づき、マクドナルドからの電話を逃さぬように、携帯電話を手に取った。そうすると同時に着信が入った。
「もう着いてるんですけど〜」
と、高いトーンで電話先の男が言う。
『あっ、これは・・・もしや、放置プレイをしてしまった??』
と思い、焦って寮の外に出た。
ちょっとふくれた顔の男性がバイクでそこにいた。
“I’m so sorry! Are you waiting?” (ごめんなさい、待ちましたか?)
相手は何も言わないけれども、明らかに不都合なことがあったような雰囲気なので、私は謝罪した。
でも、日本でよく見る超ブチ切れた感じではなく、ちょっとふくれっ面で “もうっ、あなたったたら、何をやってんの?” というようなちょっと甘い感じの怒った顔(分かりますかね?)。
そのふくれっ面を保ちながらも、怒鳴ることはなく、会計処理をして品物をくれた。今までの宅配物よりも温かかった。『ああ、いつも遅れるから、今回は急いできてくれたんだな(そのくせ、自分は・・・・苦笑)』と気づくと、ますます申し訳なく思った。
“I’m so sorry! Are you waiting?”
と、私はふたたび言った。
彼はすべてを指を広げて、声を出さずにこう言った。
“10 minutes!”
ただ、これがマレーシアという不思議な国の効果(?)なのか(?)
『なんだ、10分か。日本の1分遅れみたいなもんだな』と思うと、ちょっと気分が楽になった。
でも、逆にマレーシアの時間感覚はそれくらい日本とズレているので、彼の言う10分は、実は20分かもしれない、という発想にも結びついていった。
だから、とにかく謝った。外国で無駄に謝罪しすぎない方がいいということは分かっているけれども、猿と学生しかいないこの場所で待たせるのはあまりに酷だと思ったからだ。
そして、そこに偶然やってきた日本人男性と挨拶をして、私は4階へと上がっていった。
と・こ・ろ・が!
気がつくと、茶色い物体が行く道を遮っている。
「うわっ!猿や!」
気づいた頃にはもう遅かった。
右も左も前も後ろも「猿」である。
「きゃーーーーーーーーーーーーー!」
私は大声で叫んだ。まるで、狼に囲まれた美女のような気分である。
「きゃーー、きゃーーーーーーーーーーーーー!」
とにかく叫んだ。叫ぶしかない。動けないのだ。
だって、右も左も前も後ろも「猿」なのだから。
『猿は、私の顔を引っ掻くのだろうか?』
『もし引っ掻かれたら、美女ではないとはいえ、傷痕が残る』
私は、温かいマクドナルドを両腕で抱えて、食べ物だけではなく、自分自身をも守るような姿勢をした。
そして、猿をチラ見した。
『あなたは、やっぱり私を襲うの?』
そう、探るようにお猿さんを見つめた。
『ボリッ、ボリッ』
猿は、インスタントラーメンの乾いた麺を持って、ボリボリ食っている。
目を覗くと、『マクドの袋を奪ってやる』という強い意志までは感じられない。ボリボリ食いながら、こちらを眺めている感じである。
今度は後ろの猿を眺めた。
『食べ物が欲しい猿は、やっぱり凶暴な目をしているのだろうか?』私は、猿の目の中に凶暴性があるかどうかを確認したが、それは感じ取れなかった。こちらからブツを奪えるかどうかを単に探っている様子である。
『機会があれば奪ってやるか』というような感じである。
とはいえ、猿がどんどん周りにやってくる。
10匹くらいは軽くいただろうか。
私は、叫び続けるしかなかった。
隣の棟には、先ほど挨拶をした日本人男性がいた。
「ちょっと待ってて!」
とは言っても、双方の棟には鍵がかかっていることも私はよく分かっていた。
『どうしよう・・・』
とにかく叫び声しか出て来ない。
『こんなに大げさに叫び声を上げ続けて、周りは何事かとさぞ驚くことだろう。何事かと来てみたら、ただ猿に囲まれているだけではないかと思うかもしれない』
そんなことを考える冷静さとは裏腹に、叫び続けるしかなかった。
そうしたら、男性の棟から、たくさんの男性が顔を出してきた。私はちょっとだけ安心した。
彼らは女性寮の中に入れないことはよく分かっているため、そこから動かずに猿を威嚇し始めた。彼らは『猿の扱い方法』をよく分かっているのだ。
隣の棟から大声でアドバイスをくれるけれども、混乱して何を言われているか分からない。とにかく、どこかへ逃げなければと思った。
何を言われたか覚えていないけれども、「大丈夫だから」というようなことを言われたような気がする。とにかく一歩踏み出す勇気をくれる言葉を言われた気がする。
そこで、私は思い切って、自分の部屋へと叫びながら逃げていった。
ダブルチーズバーガー・セットは無事に守り抜いた。
ありがとう。
果敢な野獣たち。